「MACBETH」@ラフォーレ原宿ミュージアム

原作:ウィリアム・シェイクスピア 翻訳:河合祥一郎
脚本:斎藤栄
演出:板垣恭一

出演:矢崎広/馬渕英俚可/宮下雄也(RUN&GUN)/国沢一誠(ヒカリゴケ)
小林且弥/二瓶拓也/末原拓馬/マーク/長倉正明/山本侑平/加藤啓
松村雄基

昼の回が個人的にラストマクベスだったよ。
何度か入ったことのあるラフォーレミュージアムが、同じ会場とは思えないような作りになっていて初日はまず驚きました。真ん中に四角いステージ、客席はブロックで360度ステージを囲んでいて、天井からはサテンとかオーガンジーとかの端切れがくっつけられた黒布(昆布みたいな)がたくさんぶら下げられていて、おばけ屋敷みたいになってました。なんというか、良くも悪くも、閉鎖的でこじんまりとした手作り感。学園祭のようだ…と思ったり。このステージの作りは大変ずるいもので、位置によって観えるものが全然違うので、いろんな方向から観たくなってしまうのだよね。きっと場面それぞれに主役が存在するようになってる。あれは見応えもあるし、役者さんも緊張感の高いステージングだろうなあ。



思ったこといろいろ。いろんな方向から考えたくなる舞台でした。思い入れもひとしお。

大江戸鍋にも出演していた二瓶くんも長倉くんも好きだし、個人的にはとても楽しいキャストでした。るひまはやっぱりキャスティングが上手いなあ…。こばかつさんの酔っ払いタイムのキュートさも、あの終始苦しみに満ちた舞台を救う箸休めになっててさすがでした。加藤さんのひと癖ありそうな佇まいもセクシーで、昨日観たときにはかなり力の抜けた感じが、マクベスの切羽詰まった勢いと相まってとても良かった。松村マクダフさんの存在感はいわずもがなだったし…実力と雰囲気のある良い先輩に囲まれて、矢崎くんが必死に振り絞って演じている姿は圧倒的なエネルギーに溢れていました。かすれた声が焦燥感や無様な様子を強めていたし、昨日は特に独白シーンの早口と、奥さまとの会話シーンの差に緩急がついていて良かったなあ矢崎くん。「芝居として最高の幕開け」から「共に夢を見よう」、そして奥さまを失って「哀れな役者だ」と崩れ落ちるマクベス…彼は奥様の存在があることでしか男としての人生を生きられず、それは観客がいて初めて存在できる役者としての彼そのものを投影していたのかもしれない。

キャストの発表時に国沢氏の名前があったときは正直何事かと思いましたが(うしろシティがるひま制作の舞台に出るのとはわけがちがう)、別に珍しいことじゃないんですよね。磁石も去年の夏出てたしなあ。国沢氏、とても頑張っていました*1。声もいいしさすが。矢崎マクベスの親友バンクォー役で、マクベスとバンクォーは本当に仲が良かったのだろうと思う…マクベスが野心に呑まれて転落していくスタートは王殺しだけれど、それをけしかけた奥さまの言葉にも負け、存在に恐怖しながらも自分で手を下すこともできなかった親友の幻に怯えるのは、バンクォーのことよく知る距離と、強い罪悪感を反映していたのかしら。「その姿でさえなければ」「この幻」と自分で認めているのに、その影に囚われて逃げられず、そしてそれを目の当たりにする奥さまはきっとどうしようもない苛立ちがあっただろうなと思う…きっとバンクォーをマクベスが手にかけてしまった時点で、奥さまは諦めに近い気持ちになっていたのかもしれない。そんなものを気にしないで、背中を押した自分と地位を守って欲しかったであろうに。子どもがいないらしいふたりなのに*2、奥さまが「乳で育てた子どもの脳みそでも引きずりだせる」と言っていたのは、それだけの残酷に代わる愛の宣言だものね。
奥さま役馬渕さんが、本当に本当に美しくて、たまりませんでした。小さな舞台ですがお衣装も本当に奥ゆかしくも豪華で綺麗!ナイトドレスのあの細かなきらびやかさったら…。「サンセット大通り」でも思ったけれど、野心と狂気をたたえた女性はいつの時代もとても美しいのですね…。そして男性は、そういう気持ちを失うか、妄信するかして、愚かになったときが魅力的なのかもしれないな。自分の淫蕩っぷりを熱弁するマルカム王子しかり…宮下くんのマルカム王子、すごかったなあ!なんだかあのシェイクスピアの世界に一番合っていた役者さんだった気がする。

昨日は陛下の動きの勢いが良すぎて、身体の回転と同時に剣がシュパーンと抜けてびっくりしたよ。客席まで飛んでいかなくてよかったね。最後の殺陣のシーンで、前半観たときは片手で剣を持ってマクダフに突き出していたのを、昨日は左手を下から添えて握りしめていて、それが縋りつくような必死さに見えて泣きそうになりました…。


各人にスポットがあたる流れるような演出はさすが板垣さんだなあと思いました。シェイクスピアとこの作品のことについて、パンフレットに板垣さんが書いてらっしゃること、これを読んだおかげでかなりすんなりと観劇することができました。こういう古典文学を、ストレートプレイで「おもしろい」と思わせてくれたこの舞台に感謝したい。
矢崎くんお疲れさまでした。たくさんたくさん思うところあるんだけれど、多分彼自身も書いているように、支離滅裂になってしまうのでやめておく…。一生懸命で、愛されてて、やっぱり目が離せない人です。この人を応援してて良かったなと思わせてくれる人のファンでいるのは嬉しいですね。

*1:初日、最前列で片山氏が観てたw

*2:後から知ったことだけど奥様は再婚で前の旦那との間には子どもが居た