図書室の海

図書室の海 (新潮文庫)早速読みました。表題である「図書室の海」は「六番目の小夜子」の番外編ではあったけれども続きではなくて、秋くんのお姉ちゃんにまつわる短編でした。結局あの話はあれで幕切れなのですね。あまりのあっけなさにうーんと思ったのだけど、今はそれはそれでいいやと思います。にしても、デビュー作のあとだからなのか、短編だからなのか、表現のきらきら具合に磨きがかかったのをすごく感じました。
最後の「ノスタルジア」に松本市の描写が出てきてびっくり。ストーリー云々よりも、恩田さんが何を思ってこの地方都市を取り上げ、松本城は夜中に羽や嘴が生えて烏になるなんていう空想に至ったのか、昨晩は気になってなかなか寝付けませんでした。私にとってこの街は、母の故郷であり生まれたとこであり、小さい頃から何度も訪れてはいたけれども、育った地元のように愛着があるわけではなく、なのに進路として来てしまったというある意味因果な街です。好きにも嫌いにもなれない。特別思い入れがあるわけではないのに、松本を長野県としてひとくくりにされたりするとものすごく腹が立ったりして、私の中でここは特化しています。なので今回のように、小説の中でふと現われると嬉しいのとは違う不思議な気分になります。