「英雄の運命」@よみうり大手町ホール

出演:大山真志、林剛史、小林且弥鎌苅健太八神蓮 
脚本・演出:毛利亘宏

3年前の5月の「うた」、一昨年の7月の「うそ」から、チーム英雄シリーズの3回目。あらゆる舞台作品・興業において、シリーズとして残るということはその需要に反していかに困難なものか、こういう趣味を長いことやっていればいやでも痛感してきたので、本当に実現してくれて、うれしかったです。こうして次も次もって、どんどん欲張りになってしまうのが申し訳ないほど。
今回の「運命」は「うた」に回帰したところがあって、それぞれのキャラクタライズも、人間関係も、役割も、最終的にみんなヴェートーベンのこと大好きなのも、似てるな〜一緒だな〜って思い返すだけで楽しかった。踏襲してたり、差異があったり、そうやって振り返る過去があることも幸せなことだし、続いたからこそどんどん増しているカンパニーの魅力があふれ出てて、それが観れるのも幸せ…。そうだよねえ、同じメンツでやれるって、嬉しいよねえ。
ヴェートヴェンと周りの思いをつなげる役として、ちょっといけずなところがある秘書シンドラー@鎌苅氏が、今回もまた聖母のような微笑みを何度も浮かべていて、もうそれだけで癒されました。オネエ姿お美しかったし…。彼がヴェートーベンに言った、あなたは私が愛した音楽を作ったひと、だからあなたは英雄なの、という言葉が、表現作品とその作者に救われ続けた人生を送っている身にはたまらないものがありました。あなたがそれを望む望まないにかかわらず、あなたを英雄と呼ぶことを赦してほしい、シンドラーの勝手でかわいらしい愛情がいとおしかった。


7月のスレイジーでわかりやすく苦労していた大山くんが、お誕生日イベやらを経て、幾枚も皮が剥けているのが伝わってきた。「一皮剥ける」とか、えらそうであんまり使いたくないんだけども、大山くんのあふれ出るハッピーさがメーター振り切ってる感じだったもん(笑)。千秋楽のカテコで、終始いじられ用に置かれていた太らせ肖像画に自らキスして帰ってった大山くんがもうそれらしすぎて。どんだけ自分を愛せてるんだよ…(ナルシスな意味でなく、まったくひねくれてないお育ちの良さ)。彼いわく、「帰ってきたという気持ちを与えてくれる」「このメンバーでしかできないと思う」あの場所で、あの抜群の存在感をいかんなく発揮して、それを、客席だけでなく舞台上の人たちも受け止めていて、もう幸せ以外のなんと言ったらいいのやらという感じ。やっぱり、帰る場所がある人は強い。世の中の、いわゆる「推される」人たちみんなに、板の上に限らず、そういう場所があったらいいのになあと思う。

「うた」のときから感じてたけど、この英雄シリーズは、「観てくれる人」「愛してくれる人」(ファンなり執着する人なり)が居て初めて存在することができる役者の強さや幸福な面をめいっぱい表現するメタファーになっていると思うんだけれど、そんな毛利さんのイズムと、それを表現するのに余りある説得力を持った大山くんとの組み合わせはもはや奇蹟だなあと思う。