英雄と負け犬/君にパトラッシュが殺せるか

  • なかやざき第1回公演「フランダースの負け犬」@シアターサンモール 7/13:マチネ 7/20:ソワレ
  • 「英雄のうそ」@恵比寿ガーデンルーム 7/18:マチソワ 7/20:マチネ


矢崎くんと大山くんが公演時期どんかぶりで舞台やってて、いろいろ比べずにはいられないでしょうよ!どちらの作品も本当に面白かったし良かったし、それぞれたくさん思うところがあって、しみじみ余韻に浸ってますが、書きたいことが多すぎてまとまらないよ。
とにかくやっぱり、去年「英雄のうた」を観たときに感じた、ふたりの役者としての存在感の両極端っぷりを改めてまざまざと見せつけられました…。これだから役者さんは面白い。


中屋敷さんの作品を観たのは初めてだったのだけれど、今回のは若い男の子たちだけを使うことで表現できる世界感だった。7人同じ衣装で、小道具も使わず、セットと呼べるものもほとんどない、会話と感情表現を重視した脚本への自信がなきゃできないあの演出、ものすごーく好きでした。ちっとも救いのある物語ではないのに、宮下くん演じるバラックを見ていると、なんだかトップリードのコントの世界に通じるものを感じて*1、不思議なうれしさを感じてしまった。だれかがだれかに心を寄せたり、相手の思いに揺り動かされたり、思い悩んだりする様を観ると、心が震えます。

英雄は、「うた」とまったく違うテイストに、踏襲させているところがとても巧妙で、これを同じキャストでやっているからこそできる面白さ…なんて贅沢なのかしらー。
なかやざきもチーム英雄も、どちらも本当にすてきなカンパニーだったのが伝わってきました。ぜひ次回に期待してます。


ヒュンケルがバラックを自分の決意と手で撃つことができていたなら、栗野閣下みたいになれたのかなあ。一緒に生きていきたかった人の命を犠牲にして生き延びた強さと、犠牲にできなかった弱さ。ヒュンケルはずっと自分に嘘をつくことができなくて、権力の嘘に従うこともできなくて、結局すべて失ってしまった。かたや自分の名前も捨てて、国という大きな未来のために生きる閣下はとんでもなく強い。それはやっぱり、閣下の過去の喪失がそれなりの代償ということなんだろう。閣下の川上氏への最後のことば、「名もなき英雄がこの国のために死んでいったことを忘れないでほしい」は、実は過去の喪失のことを指していたのかなあ。

わたしはたぶん、パトラッシュを殺して強くなることはできない。それなら、だれかのパトラッシュになって死にたい。

*1:彼の雰囲気が和賀氏にぼんやり似ているのと、ボケ方が新妻氏みたいだったんだもん…