茗荷谷の猫/木内昇

茗荷谷の猫

茗荷谷の猫

明治から終戦後にかけての東京の各所を舞台とした短編集。それぞれの話はちょっとずつリンクしており、そのつながりが垣間見えるたびにキラっとした綺麗なものを見つけたような嬉しさ切なさを感じました。「隠れる」「庄助さん」「てのひら」が好きかな。表題になっている茗荷谷のお話は、それ自体はあいまいな靄のようなものがかかっている印象で、奥さんの哀れさや、少しホラーっぽい感じを残しつつ、全体の作品にちょっとずつ爪を残しているところが良かったです。「隠れる」の耕吉が猫を忌み嫌う描写が、なんていうか情けなくて笑えてしまった。誰も彼を外側から批判する人がいないので、読んでいるとつい「ざまあみろ」というブラックな気分になりそうでした。
東京の、よく知らない場所が多く舞台になっているので、分かっていればもっと楽しめたんだろうけどなあ。あと内田百聞先生が読みたくなりました。「冥途」について調べてしまった。あと野良ちゃん→ノラと合わせていたりするのかしらね。文学愛にも溢れた、噛みごたえのある小説でした。
「てのひら」の佳代子さんがお母さんに怒るところは胸が痛くてたまらなかったなあ。「どうしてちゃんとできないの」、私のお母さんなのに。