嘘猫/浅暮三文

嘘 猫 (光文社文庫)

嘘 猫 (光文社文庫)

猫につけこまれてると分かっていながら思うつぼになっていく「僕」がいとおしい。あまつさえ、母猫に対して自分を「お父さん」とか。でれでれ。若い「僕」の苦しさや痛々しさが達観した視点で書かれているのもよいし、さっぱりしていながら時折胸を突くような描写にグっときます。ミヤが生んだ仔猫の一匹の目を開けてあげたときの、「仔猫特有の夢見るような反射」という表現があまり素敵すぎてくらっとしました。
完全なノンフィクションというわけではないので、脚色もあるでしょうが、今だったらきっとこんなふうに野良猫と暮らすのは難しい。常盤壮の大家さんも、作者が猫飼ってること気づいてたと思うな。ミヤはそういうところも見抜いてたかもね。
外に出る猫と暮らすことは、二度と帰って来ないかもしれない不安を常に抱えているということ。猫が最後につく嘘はずっと嘘のままであってほしい。